被相続人にとって奥さん(配偶者)というのは、人間関係の中で特別な存在であり、相続税法においても、他にはない特別な人間関係ゆえの規定があります。
相続税において配偶者とは戸籍上の婚姻関係にある個人をいい、事実婚は含みません。
実際、長年生活を共にして、協力しあって生きてきたパートナーであれば、入籍していないだけで、実質的に配偶者と同じではないか、という主張は、一面もっともだと思います。
しかし、戸籍以外で判断するといっても、どこまでが配偶者と同等なパートナーなのかの線引きは大変難しいですよね。
相続税法では、現在のところ基本的には戸籍上の関係で線引きをしています。
[1]1億6千万円までは、相続税はかからない
被相続人の配偶者が取得した相続財産の内、評価額1億6千万円までは相続税がかからないことになっています。
相続開始時の相続税評価額で、相続財産の合計額が1億6千万円までですので、もし財産の内訳がすべて上場株式で相続税評価額2億円だとした場合、相続開始後3か月で時価が1億円に下がってしまっても、2億-1億6千万=4千万円については、相続税の対象となるということになります。
逆に、財産の内訳がすべて上場株式で相続税評価額1億6千万円だとした場合、相続開始後3か月で時価が2億円に値上がりしても、差額の4千万円については、相続税は課税されない、という事になります。
[2]相続税の課税価格の総額の1/2までは相続税はかからない
被相続人に関する相続税の課税価格の合計額が例えば30億円であったとした場合に、配偶者がそのうち15億円取得した場合、配偶者の相続税はゼロ円です。
配偶者が相続で取得した価額が1億6千万を超えていても、相続税の課税価格の合計額全体から見て1/2以下の取得であれば、相続税はかかりません。
この1/2というのは、子がいる場合の配偶者の法定相続分のことで、子がいなければ2/3、3/4となるケースもあります。
[3]財産取得者が決まっていないと上記の規定はなく、相続税がかかるかも
上記の規定は相続税の申告期限までに配偶者が取得することが決定したものについてのみ、適用されますので、まだ分割協議などで誰が取得するか決まっていないものについては、基本的には相続税はかかるかもしれない、と思ってください。
[4]なにもしないと相続税は、かかります
上記の概要の説明だけですと、例えば配偶者の取得が1億6千万円だとした場合、相続税については、何もしないでも相続税はかからないと早合点してしまいがちですが、上記の規定のいずれも、相続税の申告と、規定についての計算明細、一定の添付書類の提出が必要です。
それがないと、基本的には相続税はかかると思ってください。
[5]その他
このようには配偶者には、相続税のサービス規定がありますが、全体からみると、親から子、子から孫、という本来の世代の流れに関する見方からすると、余程年齢差のある夫婦でなければ、夫婦は同一世代であるため、世代が交代しないため、相続について、優遇されて当然ともいえます。
今回相続人となって財産取得した配偶者が亡くなった時、基本的には子などの次世代が財産相続し、そこで配偶者の財産について相続税がかかってきます。
このため、夫婦間の相続は、相続税が課税されるのを一旦保留している、という見方もできますので、必ずしも、配偶者が財産取得することが全体からみたらお得(節税)になるという事ではありません。