老人ホームにいた場合の小規模宅地等の特例(相続税の計算)

亡くなった当時、被相続人が老人ホームにいた場合、自宅は被相続人等の居住の用に供していたといえるかどうか?

該当しなければ、特定居住用宅地等とならず、小規模宅地等の特例である宅地等評価の80%割引規定は受けられません。

 

 

被相続人が老人ホームへ入所し、その後自宅へ戻ることなく、亡くなってしまう事例では、平成26年1月1日以後に取り扱いが緩和されました。

①変更前は入居時に被相続人が要介護認定又は要支援認定を受けている必要がありました。

変更後は、入居時点での認定にこだわらず、亡くなる直前に要介護認定又は要支援認定を受けている場合は適用できます。

②変更前は、被相続人又は親族によって老人ホームに係る所有権が取得されたものでない事、又は終身利用権が取得されたものでない事(=定住する意思がない事)という要件がありました。

変更後は、この要件は廃止されました。

 

③変更前は、被相続人が自宅に戻っていつでも生活できるようにその建物の維持管理が行われていることという要件がありました。

変更後は、この要件も廃止されました。

 

*いずれも、介護の現場をある程度経験している人からすれば、当然の変更といえます。

本人も、周りの家族も多くの場合、生活の拠点を移すために老人ホームに喜んで進んで入ろう入れようとするものでなく、将来自分自身が人並みに生活できるだろうかという不安、家族や周りの人へ迷惑がかかることへの心配。また介護する側の介護体制の不安、危険予測から、やむなく選択に至るものだと思います。

自宅の近くの希望する市町村の介護施設に入れず、何百人も順番を待たなければならない現状。

介護状況が緊迫して、高額な入居金、利用料を支払ってでも、民間の有料老人ホームに入所せざるを得ない現状。

終身利用権がないという事は、利用を継続できない場合もあるという契約で、体力、精神力が衰えていく高齢者や家族が、退去させられることを前提に施設を選ぶでしょうか?

都合に見合った介護施設を選択できるほど、施設はじめ介護分野全般の状況には余裕がないのが昔も今も変わらぬ現状です。

又、留守になった部屋は誰に見せるために維持管理するものでしょうか?

主観や習慣のちがいで”維持管理”の基準が不明です。

例えば日用品、季節ごとの電化製品などの物置と化してしまったとしても、また状況が変われば片付ければよいだけの話、たとえ畳にカビが生えて放置していても、状況が変われば(居住者が戻ってくれば)、畳替えや掃除すればいいだけの話ですよね。

 

改正後の要件の被相続人が老人ホームにいた場合の居住用宅地等の適用指針は次の通りです。

(1)要介護認定、要支援認定を受けていた被相続人が次の施設にいたこと

①認知症対応型老人共同生活援助事業が行われる住居、養護老人ホーム、特別養護老人ホーム、軽費老人ホーム又は有料老人ホーム ②介護老人保健施設 ③サービス付き高齢者向け住宅

(2)事業で使用したり、貸したりしていない事

(3)被相続人又はその同一生計親族以外の人が住んでいない事

 

*住居であったところを、収益物件にしたり、相続人等以外に対して有効に利用しているなら、居住用として優遇規定を適用する必要性はないでしょう、というところです。

この(2)の貸している場合は、貸付事業用宅地等として相続税評価額に対して50%割引規定の適用が受けられる可能性はあります。